~LOVE GAME~
「彼、忙しそうだね?」
その様子を見ていたのか、隣で貴島君がそう言った。
「塾に行っているらしいの……」
「塾……? あの春岡が?」
貴島君は不思議そうな声を出して、後ろの窓から校門を見下ろす。
「……本当に塾だって言っていた?」
「え?」
校門を見ながらそう問う貴島君の目線を追う。
窓から校門に向かって小走りに走っていく龍輝君がいた。その先には……。
「え……」
手を振る中学生の女の子。
先日ちなと見かけた、あの女の子が龍輝君に向かって笑顔で手を振っていたのだ。
龍輝君はどこか慌てたように女子中学生の腕を引っ張って、校門から離れて行き、見えなくなった。
今の……、どういうこと……?
「あれってどういうことか教えてもらえる?」
貴島君は優しく問いかける。
私は首を横に振るしかできない。頭の中が真っ白になって、なにも考えられなかった。
「松永さんも知らないってことでいいのかな?」
小さく頷くと、そっと背中に手を当てられ「取りあえず、教室に戻ろうか」と促された。
歩きながら「大丈夫?」と聞かれたが、ショックで上手く言葉が出ない。
教室へ戻ると、放課後なので誰もいなかった。
貴島君はそっと私を椅子に座らせる。
「あの子……、中学生だったね。春岡の妹?」
「違う……」
「身内とか?」
「……わからない」
貴島君の質問に呟いて答える。
だめだ、声を出すと涙が出そうになる。
「もしかして松永さん、あの女の子のこと知ってた?」
コクンと頷くと涙がポロッと零れた。
「この前二人でいるところを見かけて……。聞いたら友達の妹だって言われたの」
「友達の妹……ねぇ。常套句だね」
苦笑しつつ、貴島君は鞄からハンカチを渡してくれた。
「これ、使っていないから綺麗だよ」
「ごめん……」
ポロポロ流れる涙を、そのハンカチでそっと抑える。
涙をふくと、貴島君に笑いかけた。
「ごめんね、洗って返すから」
「いつでもいいよ。それより、春岡とちゃんと話した方がいい」
「……うん、明日聞いてみる」
怖がっていちゃダメだってわかっている。夏休みに入る前にきちんと、龍輝君と話をしないと……。