~LOVE GAME~
階段を駆け下りていると、強い力で引き止められる。
「放して!」
振り払って顔を上げると、そこには貴島君がいた。
「貴島君、ごめん……」
「いや、俺こそ強く引っ張ってごめんね。松永さん、少し落ち着こう?」
貴島君は私を中庭のベンチに誘った。ベンチは日陰になっており、夏だというのにとても涼しくて過ごしやすかった。
「これどうぞ」
近くの自販機でいちごジュースを買って手渡してくれる。
「ありがとう……」
「落ち着いて来た?」
「うん、ごめんね。急にこんなことに巻き込んで……」
下を俯きながら呟く。
「俺的には打ちひしがれる春岡を見てある意味気分良かったけど」
おどけた様な言い方をする貴島君につい苦笑する。
貴島君の性格がわかってきた気がする。
「まぁ、春岡には相当堪えたっぽいな。廊下から動けないでいたよ」
「……どうしてあんなこと言っちゃったんだろう」
”別れたいならそう言ってくれてもいい”
だなんて、本当は一番嫌なくせに……。
そんなこと言われたら立ち直れなくなるくせに……。
「貴島がどうして嘘をつくのか、ちゃんとした理由を聞いていないからわからないけど……。俺的には別れてくれたらラッキーだけどね」
「貴島君……」
「ねぇ、松永さん。あんなやつ止めて俺にしない?」
軽い口調で話していた貴島君が急に真剣なトーンで言った。
「俺なら泣かさないよ。嘘もつかない。春岡より、お買い得だよ?」
最後だけおどけた言い方をする。
「お買い得って……。面白い言い方するね」
「笑ってくれた」
貴島君の言葉に微笑むと、ホッとしたように言った。
「まぁ、すぐには気持ちが切り替えられないだろうけど、俺的にはいつでもいいから。春岡に愛想つかしたらいつでも俺の所に来ていいよ」
「……ごめん、無理だよ。それにそんな軽い感じではいけないよ」
「利用していいって言っているのに、真面目だね」
貴島君は苦笑してベンチから立ち上がる。
「じゃぁね」と手を振って去っていった。
その背中に、小さく謝る。
貴島君の気持ちは嬉しいけど、そんな簡単に乗り換えは出来ない。
龍輝君にあんなこと言ったけど、本当はまだ好きだ。大好きだ。
もし、龍輝君に別れよう言われたとしても、しばらくは誰も好きになんてなれない。
「はぁ、最悪……」
頭を抱えて、そう呟いた。