~LOVE GAME~
さて、と私は龍輝君を見あげる。
そして、無言で隣に座るよう促した。
「楓……、あのさ……」
「これ、そもそも凛ちゃんはなにも悪くないよね?」
はっきりそう言うと、龍輝君はぎこちなく頷いた。
「なにも聞かずに誤解した私も悪かったけど……。龍輝君が私にちゃんと話しておけば、こんなことにはならなかったんじゃない? 塾だ、友達の妹だって嘘までついて! それともバイトの事、私が学校に告げ口するとでも思っていた? そんなに信用なかった? 凛ちゃんに同情して深入りした気持ちもわかるけど、事情はどうであれ何も言われずにそんなことされたら不安になるに決まっているじゃない!」
気が付けば、私は龍輝君に気持ちをぶちまけていた。
龍輝君も終始、黙って話を聞いている。
あ、しまった。言い過ぎたかな……。
ハッと気が付いて、どうしようと思ったら龍輝君が頭を下げた。
「いや、本当に楓の言う通りです。俺が上手く立ち回れなかったことが原因です。本当に、ごめんなさい」
目の前には可愛いつむじが見えている。
その姿を見て、昨日のお兄ちゃんの言葉を思い出した。
あぁ、お兄ちゃんの言う通りだね。
龍輝君は私の気持ちをよく聞いてちゃんと受け止めてくれている。
龍輝君はそういう人だ。
それを見て、なんだか不意に笑いが込み上げてきた。
私がフフッと笑うと、龍輝君が顔を上げる。
「楓?」
「ごめん、なんでもない」
それでも笑う私に、龍輝君は怪訝そうだ。
「いや……、なんかね。今思えばどうして疑ったんだろうって思って。だって、龍輝君付き合いだしてから変わったでしょう?」
「そうかな」
私はうんうんと大きく頷く。
「付き合う前はもっとクールで意地悪で俺様なところがあった。でも付き合いだしたら、いつも優しくて穏やかで雰囲気も柔らかくなって……。私でもわかるくらいに変わったのに、そんな龍輝君を疑っていた」
「いや、何も言われず他の女の子といるところを見せられたら普通は疑うもんだ」
クスクス笑いながら、首を横に振る。
「あ、そういえば付き合いだした時にうちのお兄ちゃん、龍輝君に何を耳打ちしたの?」
気持ちが初めて通じ合ったあの日。
玄関で出迎えたお兄ちゃんは龍輝君に何か耳打ちしていた。
急な質問に龍輝君は戸惑いながら答える。
「ん? あぁあれな。妹を泣かすなって言われた」
お兄ちゃんがそんなことを……。……うん、言いそう。
そう、泣かすなか……。
「そうだったんだ、でも……」
と、同時に涙が出て来て泣き笑いのようになった。
「楓、泣くな……」
「ごめん、泣くつもりはなかったんだけど……」
ぐずぐずと泣き出す私の顔を心配そうにのぞき込む。
「急にホッとして……。浮気じゃなくて良かった……、他に好きな子が出来たわけじゃなくて良かったって……」
泣きながら呟く。
「ごめんね、お兄ちゃんに怒られちゃうね」
冗談交じりで言うと、龍輝君は私を抱きしめた。
「俺は、楓以外を好きになるなんて考えられない」
耳元で囁かれ、ドキッとして涙が止まる。
「聞いたろ? お前は俺の初恋なんだよ。やっと手に入れたんだ、手放すわけない」
「龍輝君……」
龍輝君は私の涙を優しく拭う。
「俺も不安だった」
「え?」
「貴島。あいつ、まだ楓の事諦めきれていないだろう? お前があいつにほだされたらどうしようかと不安だった」
確かに貴島君、龍輝君のこと煽っていたな。
「貴島君に俺にしないかって言われた」
「えっ……」
「もちろん、断ったよ。私だって、龍輝君以外を好きになんてなれない」
目を見てしっかり伝えると、龍輝君は嬉しそうに微笑んだ。