~LOVE GAME~

記憶



――――


「1-B。春岡 龍輝。学年トップでスポーツ好き。入学後すぐにそのルックスで注目が集まる。人当たりが良く、男女共に人気があるみたい。あ、高校に入学と同時にこの町に引っ越ししてきたみたいね。家族は母親と二人。でも母親は忙しくて、あまり家にはいないようだけどね」
「く、詳しいね……。ちな」

私が驚いてそう呟くと、ちなはフフンと満足そうにメモをしまった。

「将来の夢は記者だから」
「素晴らしい」

私はパチパチと手を叩く。
昨日の春岡君の様子が気になって、家に帰ってからちなに連絡をした。
メールで委員会での春岡龍輝の様子を話したら、次の日にはこの情報だ。
この短時間で、どっから仕入れてくるんだろうと感心してしまう。
私の方はというと、もしかしたら春岡君と知り合いだったかなと思ったけれど、最近引っ越してきたばかりだということは中学は別だったはず。
それなら接点はないはずなんだけど……。
どこかで会っていた……?
そう思ったけど、やはり、私の気のせいだったのだろう。

「やっぱり知り合いじゃぁなかったね」
「たぶん……中学も別だったでしょう? 他に記憶をたどっても、春岡君の記憶がないんだよね」

やっぱり覚えてない。
だから、気のせいと言うことにしよう。
すると、ちなはふぅ~んと呟き、ニッと笑った。

「さては春岡君、楓に惚れたかな」
「はぁ!? それはないでしょう~」

ちなの言葉に目を丸くし、思わず声が大きくなる。
何言ってるのっ!
それだけはない!
あんなイケメンが私に惚れるなんてありえない。
私は慌てて手を振って否定した。
ちなは「えーっ」とニヤニヤする。

「だって他に考えらんないよ?」
「あるよ! 例えば何か顔に付いてたとかさぁ」

いろいろ考えることは出来る。
ちなが思うようなことはない。

「え~、つまんなぁい。だってさぁ……」
「あっ! 飲み物! 私、喉渇いたからジュースでも買ってくるねっ」

つまらなそうにしながらも、あれこれ考えようとするちなの言葉を切った。
これ以上ネタにされないよう、私は急いでお財布を掴んで教室を出る。
廊下に出て、ホッと息をついた。
もう。ちなったら私が男子の話をするのが珍しいからって、人で遊んだりするんだもん。
ちなが考えるようなことではないんだから。
ちょっとふて腐れ気味になりながら、自販機の前でジュースを選ぶ。
さて、何を飲もうかなぁ。
お昼ご飯食べた後だし、甘いのにしようかな。
大好きないちごミルクにしようとお財布を開けた。
しかし。

「ありゃ。百円がない」

小銭がちょうどなく、お札を崩さなければならないようだった。
仕方なくお札を入れようとするが、投入口は故障中の張り紙が貼ってある。

「えぇ~……、嘘でしょう……」

そんなぁ~、ついてない。
いちごミルク、飲みたかったのになぁ……。
ガックリ肩を落としていると、後ろから声をかけられた。

「どうしたの?」





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