倦む日々を、愛で。
女友達 『粗』
『粗』

「こたつだしたなう」

朝起きてパソコンを立ち上げたら、アキのブログにこう呟かれているのを目にした。

そんなわけで今、私はアキの家のこたつで落花生を食べている。

最初こそ、
「やだー、ナツ、落花生ってこたつで食べると後大変なんだよー」
と、主婦らしくさんざんボヤいていたアキだが黙々と目の前に広げた広告の上へ殻を積み上げているのだから何とも言えない。

「あれだよねー、落花生とか蟹とかって、食べてると無言になるよねー」
「分かる分かる―。ってか、落花生食べながらコーヒー飲むとか、私たち豆豆しいよね」
「あははは。ホントだ、豆豆しいわ」

たまに話をしてみてもこんなどうでもいい会話しかしないのだから平和なもんである。
こういうところが学生時代から変わらない。
私たちの関係はどうでもいいことの積み重ねで出来ているのだ。


「で、ナツはこの前の彼とはすっきり別れたの?」
パキッ、と気持のいい音を立てて落花生を割りながら、アキは目を合わせることなく、言う。

「うん。あれっきりだよ」
浮気されて別れた男の輪郭を思い出す前に、私はパラパラと茶色の薄皮を落としながら簡潔に答えた。

「もう今は面倒臭いからそういうのいいや、って感じ」
茶色い皮を落とせば中から出てくるのはつるつるの白いピーナツ。

この白いピーナツからしたら、私は経験豊富すぎて手垢で汚れてる感があるのではなかろうか。
人生の粗もこんな風にパラパラ落としてつるつる人生にならないもんだろうか。

「あー、今まで付き合った人たち、全部なかったことにしたいわ」
「何よ急に」

思いのままに言葉を連ね、アキに軽く笑い飛ばされて。
何となく、私から零れた茶色の皮をふぅと吹き飛ばされたようで気分がいい。
少しつるつるになった私は舌もつるつる動くようになる。

少し、旧友であるこの夫婦にちょっかいを出してやろうという気になってきた。

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