奴
仕事と家との往復だけを繰り返して数日たった頃‥
駅のホームでしゃがみ込む、初老の女性が視界に入ってきた。
家路に向かう人々は素通りし、まるで何かのオブジェを避けるかのように忙しなく改札へ歩を進めて行く。
気付かなければよかったが、思わず声を掛けてしまった。
「どうされました‥?」
「・・・・・」
「立てますか‥?」
どうにかベンチまで連れて行き、駅員を呼びに行こうとすると‥
「ありがとうございます。人混みに酔ってしまっただけなので‥」
青白い顔で語りかけられ、どうしたものかと思案し、自販機でミネラルウォーターを購入し手渡した。