奴
「ありがとう‥
家はすぐそこですから、もう大丈夫です…」
指差した先は、今から帰ろうとしていたマンションだった。
ハァーッ
気付かれない小さなため息をつき
「同じ所へ向かうようですからお送りしますネ」
今にも涙が零れ落ちそうになる瞳で老婦人は頷いた。
手を貸し歩く道すがら
最近引っ越して来た事。
息子が1人いるが、この街に住みたがったのは息子なのに、別居している事。
助けられた安心感からか、老婦人は自分の身の上を話しだした。