また、明日~天使の翼を持つキミへ~


「俺は、今年病気にかかり、今日初舞台を迎えられるかもわからない状態でした」


そう言った瞬間、会場が静まり返った。


……親太郎。


「でも、キセキが起こり、まだ完治はしていないけど、今日という素晴らしい日を迎えることができました。これも、俺を支えてくれた人達がいたからです。バンドのメンバーは、病気になった俺を軽蔑することなく、俺の帰りをずっと待っていてくれました。両親は、希望を持って毎日笑顔で接してくれました。そして、菜緒……」


親太郎が、あたしを見下して言った。


「幼なじみの菜緒は、なにがあっても俺から離れずずっと傍にいてくれました。辛い時に、いつも背中を押してくれました。菜緒、手紙、サンキューな。手紙の始まり、俺のマネして書いただろ?次からは、わからない漢字あるなら無理して使うなよ」


自分のことは棚に上げて、あたしの“はいけい”をバカにする親太郎。


バカ。

あれはわざとだよ。 “はいけい”ぐらい漢字で書けるし。



「普段はなかなか言えないけど、今日は俺を支えてくれた全ての人に“ありがとう”の気持ちを込めて歌いたいと思います」


親太郎が頭を下げたのを合図にするように、叶くんのギターが響いた。


その瞬間、また盛り上がり始める会場。


拓海くんのベースが重なり、高橋くんのドラムが軽快なリズムを刻む。


大きく息を吸い込んだ親太郎は、スタンドマイクを強く握りしめ、大きな口を開いた。


体を全身使い、真剣に歌う親太郎。


鼻の筋にシワを寄せ、高い声を出す歌い方。

あたしの胸キュンポイントだ。



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