狂った愛情
目の前に、白いスーツを着た……男の人が現れた。
誰かに似ていた。

「あの、どなたですか?」

大人びて、かなりカッコよくて……
その男の人はどこか懐かしいような優しい笑顔を見せる。

「俺は、天国の番人的な役目の者です」

私たちはほえーっと彼を見る。
やっぱりどこかで聞いた声に笑顔。
けど思い出せないな。

「じゃぁ、俺たちは……」

亮平君は語尾を言わなかった。
辛い現実を受け止められなかった。

「……」

静かにうなずく番人さん。やっぱり彼も辛いのかな…?


しばらく沈黙が続いた。
切り出したのは、

「俺たち、これからどうなるんですか?」

涙声になってる亮平君。つられて涙が溢れた。
やっぱりこれからまだまだやりたいことだってあったからね。
私だって……

「君たちは、ここで暮らすんだ」

番人さんがそう言ったその時、突風が吹いた。

「うわッッ……」

目を開けると、目の前の散る花のずっと先に街らしき場所があった。

「あそこに行くんだ。そして、手続きをすませて……」

番人さんはわかりやすく説明をしている。
亮平君はそれを必死になって聞く。私は、ただ街を見つめていた。

もう昔の街には戻れないのかな。
章汰はあれからどうなったのかな……

友達や家族にも会えないの…?
思い出が脳裏をよぎる。

鮮明じゃなくて白黒な記憶。
記憶もいずれは消えちゃうのかな…
完全に消えてしまったら私はどうなっちゃのかな。
そのままあの街で暮らすんだよね。

ふとため息がでた。
涙も同時に溢れた。
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