望美 ~ママ、離れないわよ。私は絶対に!~
『バサッ……。』


ファイリングしていた書類の幾つかがフローリングの床に落下したのである。


(あーぁ。
やっちゃったよ。)

一枚一枚拾いあげるケイ子。

しばらくするとその動きがピタッと止まった。

ケイ子は凝視している。今日の依頼の元凶である例の女の写真を……。


先ほど見たときよりも更にケイ子のなかでその女に対する嫌悪感が増殖していた。


女の気品ある姿のなかから一瞬なにか凄まじい殺気の様なものを感じたのである。


ケイ子には、それが堕胎し捨てられた赤子としての復讐という思いか知れやしないが、どんな残虐な殺人鬼であっても気を許してしまいそうな、この女の優しく、愛溢れる天使のような姿が、逆にこの女がどんな残酷なことをしでかしても許されてしまうように見えてしまうのであった…。

モノクロ写真の裏には
『川添望美』
と書かれている。

あの男の話を思いだすとケイ子の脳裏に焼きつけられた恐怖を助長する。


写真の女は、娘になろうとしているのでは無く、半ば強制的に娘として存在感を現わしている。


既に『止めれない』暴走が始まっている…。

それを止めるには…。

はたして……。
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