望美 ～ママ、離れないわよ。私は絶対に！～

至福の時

神奈川・湘南


２５歳になった政子に、夏が訪れた。


広大な敷地に建てられた屋敷に住みはじめた政子は、自分の部屋からバルコニーへ出ると大きく深呼吸をし、背伸びをしながら景色を見た。


右手には緑豊かな林があり、左手にはとても広い芝生の庭がある。
そして目の前には、湘南の海が広がる。
水面に夕陽が反射してキラキラと宝石のように輝いている。

政子が深呼吸をすると共に磯の塩の香りが、暖かい風に乗り漂ってくる。


「気に入ってくれたようで嬉しいよ」
ふいに後ろから声がかかる。


政子は「ハッ」と振り返ると彼女の旦那である義昭(ﾖｼｱｷ)が、立っていた。


二人は三か月前に挙式をあげたばかりである。


「えぇ……とても素敵な御屋敷だわ。都内の郊外でこんな景色が観られるなんて、今の私の気分は映画『サウンド・オブ・ミュージック』のジュリーアンドリュースみたい……。思わず歌いたくなるわ！！」
と政子は言うと、義昭に向かってハニカンでみせた。