Simply
放課後、時間の合間を縫って図書室に向かう


今日もバイトを入れているし、あんまりゆっくりする時間はないんだけど

そんな事を考えながら図書室の古びた扉を抜けると、木製の机と椅子がきれいに整列している

生徒はあちらこちらに座っているのに、真っ先に見つけたのは…


かずまが静かな表情でうつむき加減に本を読んでいる


勉強してるのかな??

こちらに気づいていないから思わずじっと見つめてしまう……


下を向くと視界を邪魔する前髪がうっとうしいのか、左手でかきあげるとまた視線を落とした


まさか、ホントに長瀬くんから聞いて…来たとか??

いや、まさか

自分の都合よく物事を解釈するのはいけない


今日はなに読んでるんだろ


ふと気づくと、他の机に座っている女生徒たちもチラチラとかずまを盗み見てはとろけたように口元をゆるめている

そんな周りの熱い視線にも気づいているんだかいないんだか、無表情の彼は罪作りだ


でも、その横顔から目を離せてないアタシもすっかり立ちすくんでいる


それでなくてもすでに夕方なのに更に雲が空を覆って、室内は電気をつけないと暗いくらいだった


湿気た空気で図書室の本の匂いがいっそう際立つ


かずまがふと顔をあげて視線を正面に向けると、少し微笑んだ


あれ?笑ってる……誰かといるのかな??


本棚の影になって見えないけど、対面に誰かが座っているみたい


数歩動いてその人物を確かめた


身振り手振りで何かを話している女の子の細い指が見え隠れして、アタシの胸がチクンと反応してしまう


……小沢さん


彼女に「かずまに色目を使うな」って釘を刺されたっけ…

つまりかずまのことが好き、なんだよね


かずまに一生懸命話しかけている小沢さんの全身から、“恋”のムードが漂っている

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