Simply
「それなら心配ない」



いつもの、感情を隠した


抑揚のない、声……



「二度と、お前の家には行かないから」


なんとなく覚悟してたから、その冷たい言葉が胸を切り裂く前に薄い防御壁をつくることができた


なのに、頭が、耳が、目が、肌が一斉に総毛立つ


胸を守ったって満身創痍




心が「泣きたい」と騒ぎ出す

脳が「泣くな」と指令を下す




立ち去らなきゃ、ここで泣くのはみじめすぎる

泣けばまた、突き放されるに決まってる



目にじわっとした感覚

気を強く持って一歩前に進もうとした瞬間


ガタガタと生徒会室のドアが揺れた

何度も何度もガタガタと動く


「……かずま?中にいるの?」


……小沢さん!!


かずまはカバンを取ってアタシの胸に押し付けた


アタシの目に涙がたまっているのを見て一瞬困惑の影を見せるかずまの瞳


腕をつかまれて、扉ひとつ隔てた隣の資料室へ押し込まれる前に、もつれた足から靴が片方脱げた

教育実習一日目に、プレゼントしてもらったルブタンの靴

「あ……」その靴を拾う間もなく資料室の扉が閉められて、反対に生徒会室のドアが開く音が聞こえた

< 144 / 250 >

この作品をシェア

pagetop