Simply
小沢さんは目線をあげると、弱々しく首を振った


「殴らない!」

「……悪い」


「謝らないでいいから!」


…………


小沢さんが懇願するようにかずまに更に一歩近づいた



「謝ってくれなくていい、から


……好きになって、私を」


トン……とかずまの胸に額をくっつけて、泣き声をガマンするかのように肩を震わせている


彼女の切ない恋心もよく分かる

それに、泣くのをガマンしている女はかずまの……




ドキン、ドキン、と心臓が鳴る


わかってる

アタシが何か言ったり、手を出したりする場面じゃない

……だけど、じっと見てるのも辛い


アタシは、居場所に困って車のドアに手をかけた


「なんで……」


背後から聞こえた小沢さんの声に反射的に振り返った

なんとなく、そのセリフはアタシに向けられたモノのように感じたから


小沢さんはかずまのシャツをつかんだまま、胸から少し顔をあげてアタシにまっすぐ目を向けていた


「なんでかずまなの?

他に男なんかいっぱいいるでしょ?」



答えに困って、アタシはただ「え……?」と聞き返すことしかできなかった


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