Simply
店の近くに車をとめて、アタシは前田さんとの待ち合わせ場所へ向かった


「マキ!」

「前田さん」

「待たせたかな?」

「今来たところだから」


前田さんはさりげなく腕を差し出す

アタシはその腕に自分の腕を絡ませた


「ドレス、すごく似合ってるね」

「ほんと?借り物だけど」

「本当の持ち主よりもマキの方が似合ってるはずだよ」


またそういうことをサラッと……

アタシがドギマギと返答に困っているのを見て前田さんが嬉しそうに目を細めていた



ホテルの大広間で開催される立食パーティ


「難しいこと言われてもアタシわからないけど、大丈夫かな?」

「マキを見たら、誰もが美しさに目を奪われて、難しい話なんて出来なくなるよ」

「……美しさって……」

「……ほんとだよ、安心して」



アタシは笑顔で前田さんを見上げた


そのスーツからは、マリンテイストの匂いがしていた


顔に笑顔を張り付かせての立ちっぱなし

前田さんはアタシのそばにいてくれて、話が難しくなりかけるといつのまにか上手に話をはぐらかしてくれた

名前を覚えるのも仕事の一つだとけっこう自信があったけれど……

さすがに次から次へと挨拶と社交辞令を交わしては入れ替わり立ち代り…

社交界慣れしてそうな女性もたくさんいて、彼女たちのこなれた立ち居振る舞いに比べると、アタシの挙動不審ったらない……


つくづく前田さんって、すごい人なんだ…と彼の顔をまじまじと見てしまったりして

なんで、独身なんだろう……
で、なんでアタシ??

と首を傾げてしまう


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