Simply



「キスマーク」





アタシはハッと息をのんだ

意味がわかると、今度は恥ずかしくなって言葉をなくしてしまう


やっぱりアタシは夜の仕事失格だ……


もうちょっと上手にやり過ごさなきゃ



「赤くなっちゃって」


前田さんの冷やかす声


「うらやましいな、その彼氏が」


自分のグラスから垂れた水滴に気づいてアタシはそれをテーブルに置いた


「でもさっき言ったことは本気だよ、少しだけでいいから考えてみて」


……アタシを婚約者として??

こんな社会に出たこともない女子大生の…どこがいいんだろ

前田さんほどの男性だったら、引く手あまただろうに……



前田さんがすっかり夜も更けて帰った頃、ゆっくりゆっくりとアタシの中のアルコールが暴れ出す



「マキ、ちづるのヘルプについて」


ママと一緒に前田さんを送っていった後、店内に戻ってくるとママに背中を押された

「あーーい!」って手をあげて返事すると、眉根を寄せるママ


ちづるさんの席にいくと、お客さんの前に座る


「こんばんは~」


と声高らかに挨拶をして、灰皿を取り替えた


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