Sweet silent night
カーラジオから流れる定番のクリスマスソングに耳を傾けつつ、車に乗ること十数分。
車は大通りから一本入ったところにある、いわゆる隠れ家的なお洒落なバーの前にとめられた。
控えめに掛けられた看板を見ると、“bar eve”と書かれている。
こんな夜にピッタリの名前のバーで、一緒に飲もうとでも言いたいんだろうか。
でも見るかぎりでは電気もついてないし、開いてなさそうだけど…
「ここ、僕の店なんですよ。
本来なら今日はお休みの予定なんですけど…
今日は特別にあなたのために貸し切りにすることにしたんで、とりあえず降りてください」
すぐに何を言われているのか理解ができなかった。
「どういうことですか…?」
「今日だけ特別にあなたのサンタクロースになりますよってことです」
「…ふふっ」
あまりにも真面目な顔でそんな恥ずかしいことを言うから笑ってしまった。
…思い返してみたら、今日初めて笑ったかもしれない。
「笑わなくてもいいじゃないですか。
行きますよ」
少しだけ顔を赤くしながら彼は車を出た。
意外とこの人女慣れしてなんじゃないかな。
顔に出るあたり、すごく純粋そうなんだけど。
そんなことを考えつつ店内へ足を踏み入れた。