Sweet silent night
ドアを開けると同時に、カランとレトロなベルの音が暗い店内に響いた。
慣れた手つきで照明のスイッチを入れると、シックで雰囲気のいいお店のレイアウトが浮かび上がる。
「カウンター席にどうぞ」
案内されるがままにスツールに腰掛けて、あたりを見回した。
黒を基調とした落ち着いた店内に、明るすぎずムーディーな照明。
「BGMはクリスマス仕様にしますか?」
後ろから彼がたずねた。
「いや…できれば違うほうがいいんですけど」
今日が特別な日であることは極力忘れていたかった。
「わかりました」
そう言い終わると同時に、彼が一枚のCDを慣れた手つきで取り出してプレーヤーに入れると、スピーカーから繊細なピアノの音が流れだした。
…ビルエヴァンスか。
曲名はいつか王子様が、だっただろうか。
少し甘すぎる気もするけど、定番のクリスマスソングよりはずっと私の趣味に合っていた。