【短編集】砂糖をかけたみたいに
「先輩…後で首絞めてやる」
「怖いよ桐真…」
あたしは手近にあった椅子を引く。
桐真もどさっとあたしの前に座った。
「…美夜、どういうことなのさ」
むうと膨れながら彼は聞いてきた。
可愛い……あたしがやっても似合わないのに。
「松田先輩にお願いしてここ貸し切ってドッキリ…かな?」
にっこり笑うと彼は脱力したように息を吐いた。
「やられたー…」
その言葉を聞いて自然と口角があがる。
「…バレンタイン、期待なんてしないで欲しいけど…」
後ろ手に持って隠してたチョコをテーブルの上に置く。
その瞬間桐真が笑顔になってくれて。
がさごそと包装を開ける彼にあたしはそわそわ。
「……美味しそう」
彼は一口食べて、柔らかく笑んでくれた。
「実は、俺もサプライズあったのに…」
桐真はそう言うなりバックヤードに向かって行った。
少しして戻ってきた彼の手には
赤、ピンク、白の小さな花束。
「西洋では男から花を贈るって先輩から聞いて…。
バイト終わりに美夜のところ行こうと思ってたんだけどな」
耳に心地よいジャズと
食べかけのチョコレート
桐真が淹れたココアに
色鮮やかなブーケ
柔らかい笑顔
振り切れた%
ふたりなら、いくらでも。
end.