Voice〜彼の声〜
「なんで橘と一緒かな…」
「悪かったわね」
教室に向かう廊下でぶつぶつ文句を言う。
「てかさ、美嘉のこと名前で呼ばないの?」
「あ?あ〜…うん」
俺は遠くを見ながら言葉を濁すような返事をする。
「恥ずかしいとか?」
ニヤっと笑う橘に俺は頭を掻くような仕草をしながら答える。
「いや、つーか…うん」
言葉に詰まる俺に、どうしたの?って顔で見てくる。
「名前で呼んでほしくないって言われて…」
そう言うと橘は「そうゆうこと」と納得したような表情を浮かべた。
俺は何で名前で呼んでほしくないか聞けないでいた。
理由を知りたいけど、知りたくない。
知ることで香坂との今の関係が壊れそうで、それをどうにかして守り続けたい。
そんな気持ちが俺を止めていた。