もう一度 君に会えたら
「冗談じゃなくて。研修でしばらく」

「帰ってこないのか?」

「いや、帰ってくるよ。でも長くなるかもしれない」

「…アタシが一人寂しく倒れて死んで、骨になるまで帰って来ない気かい?」


冗談が言えるだけの元気があるじゃないか…。

第一、死ぬ気配なんて全然ないし。

「何かあれば、老人会の人が気付くだろうし、親父たちも連絡はするから大丈夫だって」

熱い緑茶を注いだ湯飲みを婆ちゃんの前に差し出すと、それを両手でそっと包み込んで婆ちゃんは俯く。

「寂しいけど、充の仕事の為なら仕方ないじゃないか。行け。行ったらいい」

自分に言い聞かすようなか細い声。

俺は、そんな姿を前にして鼻の奥がツンと痛くなってしまう。

「年寄りを残して仕事に行くんだ、何か収穫がないとただじゃおかないよ」

そう言うと、婆ちゃんは再びテレビ画面に視線を戻した。


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