雫-sympathy affection-〜そこから零れた一握の涙〜
「たとえばさ、オレがこの瞬間を書くとするよね。そしたら、玲央はここではオレの最愛の人として書かれちゃうわけでしょ?それを、もし読者が見たら、何て思うかな」
不意すぎるその言葉に、あたしは何も答えられるはずもなく、ただ次の言葉を待つべく、シェイクを一口飲み込んでみる。
ひんやりとした喉越しと甘い香りが重なって、莉玖のその言葉の意味でさえわからなくても、何だか幸せな気分でいられそうだった。
「読者にしてみれば、オレの存在なんてないに等しいのかもしれない。だけどさ、そのオレが実はこんな人と一緒にいます、なんて書いてしまえば、もしかしたら、この人の生き方であるとかどんな人なのかとか、いろいろ想像が駆け巡るかもしれないわけでしょ。それって、オレはここにいるのに、何だかただその記事に隠れているだけで、オレが書いてるとか想像もしない、ただその記事の中でオレが登場しない限り、そこにオレの存在もあり得ないことになるよね」
この感覚が好き。
あたしは、いつも何かを感じながら莉玖を想う。
何を話し始めるかはわからない。
だけど、聞いていくうちにわかっていく、この感覚が大好き。
莉玖はいつもそうだった。
思ったことを、抽象的に捉えて何かを求めるように話し始めていく。
わからなくても、あたしには何となくその感覚はわかるような気がした。
わからないんじゃなくて、あたしの感覚と莉玖の感性が何となく似ているから、分かり合えていけるのかもしれない。
「オレね、実はおまえのこと書いたことあるんだよ」
そんな言葉を聞きながら、ただ少しの緊張と共に微笑んだあたしは、何も答えられずただ頷くばかりだった。