雫-sympathy affection-〜そこから零れた一握の涙〜
もう、お昼を少し回った時刻になる。
外では、相変わらず蝉の声で辺りが埋め尽くされている。
この場所で暮らし始めたのは、もう1年も前になる。
二人でここだと決めたこの家では、当初ルールなんて何一つなかった。
ただ、同じ時間を過ごしていく間に、いろんな意見の相違が生まれた。
だからこそ、いろんなことを話し合って、今があって。
どんなことでも、莉玖はあたしを想って発言してくれたし、あたしは莉玖を常に想った。
この想いがどんな形で未来へつながるかはわからなかった。
だけど、何かを信じることがその未来へつながるものになるなら、あたしは常に莉玖だけを想いながら生きることを選ぶ。
莉玖はその分、あたしを心から愛してくれる。
だからこそ、あたしはあたしのままでいられて、莉玖を想えるあたしでもいられる。
今を感じて生きることは、あまりないに等しかった。
だけど、ふと想えたこの瞬間であるとか、想えることの意味を知るなら、あたしはその今を感じることができたその時が、莉玖を心から愛していることの意味につながっていくんじゃないのかなと思える。
「愛するってこういうことなんだろうね」
あたしの心を見透かしたかのように、莉玖は納得したように話し始めた。
「何の意味があってそんなことをしたのか、必ず言われる場面ではこれを言えるんだろうなっていう言葉はあるよ、確かに。だけど、それを言うにはまだちょっと何かが足りないかな・・・ってね」
何となく、わかった気がする。
でも、それを追求するには、その言葉がまだ見つからないでいる。
コーヒーの香りが、そろそろ飲む頃だよと告げていた。
莉玖の視線の先には、まだ見えてこないあたしがいるかのようだった。
「グッドタイミング」
出来上がったコーヒーに視線を置くと、莉玖は立ち上がった。
グラスの中で残ったシェイクの悲鳴が、聞こえてきそうだった。