雫-sympathy affection-〜そこから零れた一握の涙〜
朝の感覚が好きだった。
それは、この季節だからというわけではなかったけど。
それだからこそ、このカラフルな季節が大好きで。
朝の気だるさ。
でも、なぜかスッキリしていて。
どこからともなく、いきなり聞こえてくる蝉の鳴き声だとか。
そこから何かを感じていけるその感覚が。
なんだか、今日1日の出来事を少しワクワクさせてくれるような。
そんな期待にも似た気持ちにさせてくれる。
「玲央(れお)、何か作ってよ」
顔を洗い終えたと同時に、莉玖(りく)が顔を出してそう告げた。
「?うん、いいけど」
タオルで顔を押さえながら言ったあたしの言葉に、莉玖が少し笑った。
「髪の毛、少し明るくしてみたら?もう夏なんだし」
あたしはタオルで口元を隠すようにして、見えるはずもない笑顔を莉玖に返す。
「実はね、こっそり考え中」
いっぱいの笑顔で、莉玖は数回頷いた。
「だったら、いいけど」
莉玖がリビングに消えると、あたしは一度ため息をついた。
何の意味もない、ただ朝の雰囲気を確かめるための、そんなため息。