終電、





お店を出るともう外は真っ暗。
5月のわりにすごく寒かった。

おかげで酔いがさめたけどね。




お店のうしろに土手があって、みんなでそこで涼んでいた。







「しーほっ!」



私のとなりにきて座ったのは里佳。


「里佳ー!酔ってるね!」

「さっきまでの志穂よりはマシだよー!」

「はは!たしかに!」


お酒がはいっているせいかすごく気分がよかった。




「志穂と一度語りたいとおもってたんだよねっ!」


「私と?」


「うん!恋バナ!」


「えー私なんもネタないよー?」


「嘘だあ?私見えちゃったもん!会計のときの志穂の財布の中!」




「…え」







財布に三年以上いれているものはひとつ。




学ランの、ボタン。



佐伯、の。





「…あ、あれは…元彼の」


「あ、ほんと?彼氏いるのかと思ったー!」


「ないない!」


「でも財布入れてるってことはまだ好きとか…?」



「…え?」





もちろん、覚えてる。



笑顔も声も。

ぬくもりも匂いも。


野球してるときの真剣な顔も。


不器用な、優しさも。





でも…



気づいてる。



この気持ちは恋じゃなくなってるって。




会えないから今はそういえるだけなのかもしれないけど。




いつも思い出すのが"まだ好きだから"じゃなくて、私の癖になってるだけってことも。






「…違うよ。」


笑顔をむけた私に、里佳は不思議そうな顔をした。







佐伯じゃなきゃだめ。

佐伯がいつも一番。




変わらないとおもっていたのに、変わってしまう私が悔しかった。







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