宵闇
出せない手紙。
『元気ですか・・・?アタシは元気にしています・・・。』

便箋に何度も書いたフレーズ。

そこからは書きたいけど書けずに、紙をくしゃくしゃと丸めてゴミ箱に投げつける。

いつも・・・そう。

今更、何を伝えようというのだろう。

アタシは、元気です・・・

その後が書けないんだ。

いや、書きたいことはたくさんある。

アナタと離れて歩いた道のこと、今現在のこと・・・。

でも、それを書いても読んでくれるかどうかわからない。

読むはずなんかない。

それでも、アタシは自分が不安定になった時に必ず、ペンと便箋を用意して、

机に向かって書き始める。

出せない手紙とわかっていても、書かずにいられない。

ちゃんと書けたのはほんの2通だけ。

だけど、相手の住所すらわからない。

何してるかも知らない。

残っているのは一緒に過ごした記憶だけ。

それも遠い、遠い記憶なんだ。

一緒に暮らしたこと、別れ際に泣き叫んだこと・・・

楽しい記憶だってある。

あるけど、それが中々思い出せない。

今日も少し心がざわつく。

不安定になりかけた証拠だ。

だからアタシは、慌てて便箋を出す。

書かなくちゃ・・・今の想いを書かなくちゃ・・・。

必死になって字が汚かろうが綺麗だろうが関係ない。

はっきりいってほぼ殴り書きだ。

アタシの今はこうなの。

アタシはこんな風に生きてるの。

アタシは一生忘れることができない傷がいまでもカラダにあるの。

アナタは幸せなの?

結婚したの?子どもはいるの?ねぇ、教えて・・・。

そこで、ペンが止まる。

そして、我に返るんだ。

『アタシ、何やってるんだろう・・・今更もう何十年も昔のことなのに・・・。」と。

今日も同じように殴り書きした便箋を破って、ゴミ箱に投げた。

アタシは、これからも『出せない手紙』を書き続けるだろう。

そんなアタシのことなんて、きっとどこかで彼は知らないままに生きている、・・・。
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