宵闇
歪んだモナリザ。
アタシの母親はとても屈折している人だと思う。

アタシは幼少時に母と二人で暮らしていた。

母として一時的なシングルマザーとして一生懸命アタシを育ていこうとしてたんだと思う。

アタシはいい子になりたかった。

いい子を演じなければいけないとずっと思っていた。

母は、時折『男』と部屋で二人で過ごすことがあった。

それはあることを意味してる。

アタシは小さいながらにも『それ』を見てはいけないもの、

傍にいてはいけないものと認識せざるを得なくなった。

母は、その時が来るとアタシをアパートから締め出した。

ウルトラマンのおもちゃを持たせて。

小さかったアタシは、大家さんの家に行ったり、小さな商店街で遊んでいた。

そこで時々ご飯ももらった。

『それ』が終わるとにこやかに迎えに来る母。

アタシはそれが嬉しくも何ともなかった。

ただ、小さいながらに母に『女』を見ていたのだろう。

母は、会社で上手くいかないことがあると酒を飲み、アタシを罵った。

『お前がいなければアタシは幸せだったのに・・・。』

アタシなりにいい子にしてきたつもりだった。

トイレに落っこちそうになりながら掃除したり、洗濯物を小さな手でたたんだり・・・。

今、母に捨てられたらアタシの居場所はなくなると思ったから。

必死にいい子を演じ続けてきた。



小さいアタシが生きていくためには、

まだ、大きくなるためには、

この『母』という人の存在がなければならなかったから・・・。

母は、いつものように機嫌がよいとアタシを可愛がった。

悪ければアタシを罵り外に何時間も放置した。

最初は泣いてドアを開けてくれと騒いだりもしたけど、

途中で諦めがついた。



アタシの中の『母』という人は『女』としての存在にしかならなくなっていった。

アタシはきちんと与えてもらえなかった愛情を、男に向けるしか方法を知らない。

たぶん、今もだ。

守って欲しい、愛しいて欲しい。

ただ、それだけでいい。

その愛情を探してまた、相手を探す。

いつからこんなにアタシの愛情への気持ちはゆがんでしまったのだろう。

母に対してもいつからゆがんでしか見えなくなってしまったのだろう。

ただ、母性というものを知りたいだけなのに・・・。欲しいだけなのに・・・。

幼少期の出来事で、アタシの愛情と感覚は確実にゆがんでしまったものとなった。

昔、アパートの大家さんの玄関にモナリザの絵がかかっていた。

それを見て、アタシはこの人が母ならよかったのに・・・と思ったことがある。

でもその記憶はあまりに辛く、今でもモナリザが見れない。

そして、今も母が『歪んだモナリザ』に見えているアタシがいた。


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