コイシイヒト
「夕実、キスしていい……?」
健史の声に、トクンと鼓動が高鳴る。
そんな事、聞かないで。
聞かれたら、答えなきゃいけないじゃない……。
心の声とは裏腹に、首を横に振った。
もうこれ以上踏み入ってはいけない。
友達でいられなくなるよ。
わたしを包む腕が緩み、自然と二人の間に距離が出来た。
けどこの距離は、一線を越えるための距離。
この距離が消えてしまうと……
俯いたわたしの唇に、健史の唇が近づく。
「……困る」
そう言って肩をすくませたわたし。
自分への最後の抵抗だった。