短いの【ショート集】

暗く狭い場所で薄ぼんやり意識を開花させた。意識と呼べるかはわからないが、目的意思が芽生えた瞬間だった。

まるで上下感も何もないこの場所で、ただフワフワ浮遊するかのような体は確固として拘束されていた。

厚い壁を隔てたどこかで何かの声が僅かに聞こえる。が、何を話しているのかは理解出来ない。

暗黒の場所では、目を開いているのか閉じているのかすらわからず、辛うじて手探りでどこかへ通ずる道を見つけた。

しばし考察の時。
この道を辿れば脱出する事が出来るのだろうかと。

頼りない思考は、それでも無意識か本能かこの場を離れる事を望んだ。
望む望まぬに関わらず後退する道は無い。

心のどこかで、どこに通じようともこの狭く暗い場所よりは……と言う思いがあったのかも知れない。
そして、この場所から出るべきだと知っていたかの様でもある。

簡単には抜け出せそうにない悪路。
その道中は脱出を望んだ本能や目的意思すら後悔させる。

一体この先には何が?

しかしどれ程困難な道のりであっても、その道がどこまで続こうとも、“行かなければならない”何かが体を動かした。

ふと思う。「素晴らしい楽園が待っているのだ、きっと」そして記憶の奥の奥に微かに残る淡く薄く消えかけているビジョンが教える。「かつてこの先にあるどこかへ自分は一度行った事がある」と。

何故、何時から留まっていたのかはわからない。どれ程の時を過ごしたのかもわからない。ただ前へ……、そう駆り立てる本能。

これ以上先に進めるのだろうか?と、途中何度か心が折れかける。希望だけを頼りに進む。

ようやく微かな光が瞼を通して眼球に届くのを感じた。
一心不乱にその光目指して前進するが、悪路は尚も狭く困難を極める。

あそこまで行けば。何とか辿り着けば。
本能がそう教える。それに呼応する様に希望が満ち溢れ、力が漲って来るかのようだった。

光が徐々に強くなり、ある瞬間、無限とも思えるような広大な広さを肌に感じた。
まるで転がり出るかのように脱出を果たした時、目一杯外界の何かが肺に注ぎ込まれた。


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