短いの【ショート集】
僕が中学から吸っていたは赤い箱の煙草。真っ赤な色がやけに重く、その箱を握る度に大人になったような気がした。
何時の間にかあの頃憧れた大人になり、僕と云う呼び方も俺に変わり果てた。何時しか赤い箱の重みはなくなっていた。
軽々しく煙草を吹かしては、空になった真っ赤をポイとゴミ箱に放り投げる。真っ赤は黒ずんでいた。大人になった俺のように。
真っ赤な箱を握り続ける俺は無意識に大人になりきれないでいた。教えてくれたのは彼女だった。
彼女の吸う煙草は黒い箱のメンソール。彼女の黒が黒ずんだ赤い俺を真っ黒に染めて行った。いずれ限りなく黒に近付くであろう赤。それを早々塗り替えただけだ。
メンソールは新鮮な味だった。
今まで吸った事の無い味が真っ赤を忘れさせ、黒に浸り、黒に溺れ、黒に侵された。黒は全てを飲み込み、闇に溶かし、闇に僅かにスッと刺激的な香りを残す。
黒い彼女はそれだけを教え、真っ黒に成り果てた俺を残し違う色の煙草を吸い始めた。
取り残されたのは黒い箱と黒い俺。
吐出す煙はもはや刺激さえも慣れに沈み、ただ灰色の煙でしかなかった。
部屋には空になった黒い箱が転がり、ポイと捨てる事すらしなくなった。
空き箱と一緒に俺一人。
床に空っぽの黒が転がり、天井に灰色の煙が漂う部屋。
いつまでその部屋に転がっていたのだろうか?思考も意味なくさせるかのように、ある日俺は灰色に。灰色の灰になっていた。
黒い空き箱を誰がかたすのかはどうでもよかった。所詮空き箱は何時か灰になり、煙は空へ溶けて行く。
空に溶けようとする灰色の俺は、明るく笑う笑顔の綺麗な彼女を見つけた。
彼女が吸っていたのは、白い煙だった。
白い粉から揺らめく白い煙。陽気に笑う彼女が羨ましく感じた。
そして俺は空に溶けた。