短いの【ショート集】
夕日が微睡みながら、オレンジ色の光を地上に落とす寂しげな時間。
光を遮りながら歩く僕は一人、その伸びた長い影すらも足取りは重い。
古びた二階建ての窓を見上げると、すでに灯りが灯され“奴”が居るのが外からでもわかる。
「ふん。よくもまあ、呑気にしていられるものだな……」
僕は何度目かの深い溜め息を落とし、引き摺る影と一緒にその家のドアを開けた。
これほどまでに憂鬱を抱えるには訳があるのだ。
僕の所属するグループには、手に負えない危険な輩がいる。
普段は……、いや時々は仲間思いの頼れる男に変貌するのだが、如何せん性格が横暴極まりなく我が儘で自分勝手。
見境なしに思うままに生きている野性的な男。
幾度となくその被害に合い、幾度となく争っては来た。が、力とは絶対的なのだといつも気付かされるばかりだ。
しかし、今度ばかりは何故自分がこうも同じ仲間で居続けなければならないのかと、心底疑問に思った事はない。
と云う思いすら日々繰り返している。
僕には心底惚れた女が居た。
いや、現に今も惚れ続けている。
彼女があのグループに居るからこそ、意固地になっているのかもわからない。
相変わらずの尻の軽さを見せる思わせぶりな彼女にも手を焼いている。いい女とはそう云うものだが。
彼女の産まれたままの姿、白い肌は何度も目にしていた。が、それでもまだ自分の物になったとはどうしても思えずにいた。
部屋に居座る“奴”を思い、「何の為にアイツは……」と心で苦虫を噛み、ちっと舌打ちをする。
部屋にいる“奴”とは、繰り返す歪んだ日常の中あれこれと気を揉みながらも、その実、大して力になっているのかどうかすらわからない……僕の唯一無二の相棒の事だ。
互いに綿密に企てた野望すらも、奴は忘れてしまったのかも知れない。
「奴が本気になりさえすれば、何だって手には入るはずなのに……」
金……名声……女……力……
「その気になれば、どんな事だって。
何だって、僕の物に出来るのに……」