短いの【ショート集】


二人は今、離れ離れに暮らしている。
男の転勤が決まったのは結婚直後だった。結婚を機に買った新居が単身赴任を余儀無くした。

東京から大阪。
新幹線と市営を入れても三時間の距離である。しかしその三時間が二人にとって大きな壁だった。

男の仕事は多忙を極め、余りある業務に疲れを癒やす間すらない。

女は、男の赴任が決まった時には既に身ごもっていた。
孕む女に後ろ髪を引かれつつ東京を後にしてからと云うもの、男は仕事に追われ、女は出産を控え、二人は顔を合わす暇すらなかった。

男に時間がないとは言え、それは東京、大阪間の話。僅かな時の隙間は大阪の街には存在し、やはり……浮気の相手が出来ていた。

短い電話で繋がれる夫婦の儚い絆。
女は夫のいない東京で赤子を産み、男はその時、別の女を抱いていた。

育児と云うモノは楽ではない。金銭、体力、環境と様々だが、精神がおのずと弱るものだ。

ある日男がかけた電話に初めて女は出なかった。男はそれが“初めて”である事にも気付かなかった。

女はコールが止むのをじっと見つめて待っていた。

短い電話で繋がれる夫婦の儚い絆。

男は電話を切った後深く溜め息をついた。女はランプが消えた後、涙を流して俯いた。

翌日、女は一日分の荷物を纏め、ベビーカーを押した。行先は約三時間かかる。

物事を決意するのに三時間は短すぎる時間だ。が、既に気持ちの固まった女に悩む時間は必要なかった。


< 32 / 42 >

この作品をシェア

pagetop