短いの【ショート集】
携帯が立て続けに震える。
ブルっと音のない音に怯え震えてるのは俺だ。
こんな時に会議だなんて、どうにも気になって仕方ない。
胸元で振るえる携帯には出れないが、相手のチェックだけは欠かせない。今の所妻から着信がないのが救いだ。
いつも決して忘れない免許証入。それを家に忘れて来る等どうかしている。
その中には、浮気相手と宿泊したホテルの領収書なんかを入れているのだ。もし妻がそれを見つけ、中を見たりするとかなり不味い。
また誰かの着信が俺を驚かせる。今度は浮気相手だ。また“逢いたい”とせがむのだろうが今はそれどころではない。
怯えるのは妻からの着信。一先ず胸をなで下ろし、ひたすら会議の終了を待った。
会議が終わるやいなや、俺は非常階段へ駆出す。着信はほとんど取引先や得意先からだ。他、一件は浮気相手。一件の留守電。
仕事を優先して得意先から折り返すべきだが、妻からの着信にハラハラし続けるのは頂けない。俺は汗ばむ手で携帯を握り、一番に妻へコール。
「もしもし」妻の声は至って普通だ。
「もしもし、俺だけどさ、あの……」反応を確認するように語尾を伸ばすと、妻から口火を切った。
「どしたの?こんな時間に、何かあった?」セーフ。この反応はバレていない証である。俺は慌てて要件を繕う。
「いや、今家の近くを通ったんだが、君らしき人を見掛けてね」
「あらそう。でも私じゃないわ。歩いてないもの」
この時間で気付いてないなら、今更書斎に入る事もないだろう。掃除に入る午前中は過ぎている。