短いの【ショート集】
バイト先にフルタイムスーパーアルバイトが居る。彼は兎に角真面目で、扱い辛い程すこぶる融通が効かない。

世間では彼の様な人を生真面目と言うが、数居る総称なのだから、故に“生娘”と同等位の生真面目がいるはずだ。

でも私の知る限り彼の様な人は二人と居ない。

店長は以前就職しようとした彼に無茶な理屈で逆ギレして、話を白紙にした程彼を信頼している。

彼は生真面故に良く悩む。悩むと眉間に皺が寄り、瞼が歪み、一重瞼であるはずが二重になる。

一重瞼は日に見れるかどうか。
更に上機嫌になると鼻歌を歌うらしいが、その姿はリトルハレー彗星と呼ばれまずお目にかかれない。輝く満面の笑みを浮かべ、写メに撮ると幸せが訪れるという。

男の中の男と同等……
いや漢の中の漢と……
いやそれ以上の生真面な彼を私は敬意を評し
『キマジMan』と呼んでいる。

ある朝も二重瞼生真面Man。
苦悩は通勤で優先座席に座ってしまった事。

またある日は店長の差入れが頭数無い事を知らず食べてしまった彼。

翌日差入れ返しを持参。

新入りが居ても我先に仕事をこなすが、他の人が彼の仕事(皆の仕事)を先取りすると、気遣う余り二重でニヒルに決める。

トイレを我慢して腹痛で早退した事もある。
大は時間がかかる事に気を揉み我慢した結果だ。

翌日の二重は酷く、以後「長くなります」と耳打ちして用をたす。

レジで一万円も違算が出た時は二重どころか目を閉じ泣いた。

三年で一度だけリトルハレー彗星を見た事がある。
しっかり写メった一枚だ。

バイトの一人が事故で入院した時の事。

出勤しない事に二重ニヒルを決める彼。

怒りでなく心配が悩みの種だ。
音信不通で昼を向かえ、他の者も「何事か?」と心配しだした頃、当人の母から事故の知らせを聞いた生真面Manは三時間で二五枚の皿を割った。

その事で更に皺を深くし、早送りで働く彼はバイト二人分の仕事をこなした。
店長に納得だ。

『意識を回復させた』と連絡を聞いた彼は一転、感情の重い扉を開きリトルハレー彗星を覗かせた。

その眩しい笑顔は輝いた。

稀に見る、彼の素顔。


< 41 / 42 >

この作品をシェア

pagetop