そして悪魔は二度微笑む【コラボ】
その路地裏を彼が通りがかったのは、完全に偶然だった。

目的のモーテルに直線的に向かう事が出来そうだと、たまたまそう思っただけだ。

だからその路地裏で、少女が三人の男に囲まれているのを発見したのも全くの偶然でしかなかった。

「悪いが、そこをどいてくれないかね」

彼は小脇にリンゴが詰め込まれた紙袋を抱え、怖れる様子もなく彼等に言葉を掛けた。

ソフトデニムのジーンズに薄手のジャケットを合わせた格好。

二十代半ばに見えるその容姿、ある種芸術的とさえ言える程均整の取れた面立ち、良く見れば鍛え上げられた体であるのはすぐに分かる事なのだが、このような場においてその綺麗すぎる面立ちが三人の男達に余裕を生ませた。

ましてや、左脇が若干浮き上がっている事など全く気づかずに。

「なんだテメェは? 他を通れ他を!」

三人のうちの一人、一番若い男が言葉を返す。

「私の借りた部屋までは、表通りを歩くと遠くてね。それに大の男が三人揃って女の子を虐めるのは感心せんな」

「なんだとコラァ? 大人しくどっかに行けって言ってるんだよ!」


若い男が彼に殴りかかる。
彼は慌てる事もなく、紙袋を抱えている手とは逆の手で男の腕を絡み取ると、内側に回転させながら軽く足払いを放った。

たったそれだけの動作でグルンと音がしそうな程男は空中で回転し、地面に叩きつけられる。

「がはっ!」

「話の途中で殴りかかるのも良くない。せっかく口が付いているんだ。偶には話し合いをしてみるのもいいと思うぞ」

「やろう! ふざけやがって」

少女が逃げないようにだろう。残る二人の男のうち、一人だけが彼に向かう。

彼の表情は変わらない。

足元で捻られた腕を押さえて悶える男に、容赦なく蹴りを放つ。

「あぐぅっ!」

編み上げの固いブーツから放たれた衝撃は、男がそこに留まる事を許さずに新たに殴りかかろうとする男へ向かわせる。

勢いよく駆け出していた男は、仲間を踏みつけて派手に転んだ。

「まだ、続けるかね?」

「なんなんだてめぇは!」

少女の近くにいた男がナイフを取り出す。

刹那──。

ドンッ!

男の頬に鋭い痛みが走った。
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