空へ。‐夢の先‐
─────────…




紗姫「ただいま…、」


夕方の6時。

あたしは冷めない感動を心に抱えたまま、帰って来た家の玄関で立ち尽くした。



沢木、龍。



沢木さんと出逢ったあの日からの記憶が

走馬灯のように蘇る。



沢木さんは、たしかに今日の撮影で別人になっていた。


そこに立っている人物はもう、「沢木龍」ではなく「進藤優」だというように。




沢木さん、あたしはあなたに夢を見せられた。


あなたは、一瞬で


あたしの心に“夢”をぬいつけた。





あの時のように


トクン、と一回心臓の音を感じると


靴を脱いで
歩き始めた。



ふんわりとあたしの心に宿った

夢の続きを、見るために。






─────────…



紗姫「母さん…、」


母「どうだった?見学会、」

紗姫「…凄かったよ…、」

母「…そう、」



珍しくふざけてないあたしの顔を見て

母さんは優しく微笑んだ。



母「話聞かせて?」



テーブルに座ると

あたしは切り出した。



紗姫「あたし…やりたい。」

母「……………」

紗姫「女優に、なりたい…」



沢木さんのような、夢を。

あたしも誰かに

…あの時の、どうしようもなかった自分に。


見せてあげられる、凄い女優に。



母「………、」


何故かポロポロと涙がこぼれてくる。


紗姫「…兄ちゃんや姉ちゃんも…、夢諦めて家のために働いてるって分かってるけど…っ、

昔から…みんなに迷惑ばっかかけて…、

勝手なこと言ってるって分かってるけどっ…、



でも…、でもやらせてほしい、」


母「……………、」


紗姫「…沢木さんのもとで…、出来る限りのことやってみたい…」
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