空へ。‐夢の先‐
その日の夜。



お風呂あがりにベランダに出れば、入寮した日と同じように、成二がいた。


少しだけ、ほんの少しだけ嬉しくなった。




紗姫「何してんの?」

成二「おう、…今日の復習」

紗姫「えらいじゃん」

成二「…お前こそ何してんだよ」

紗姫「暑いからね、涼まりに」

成二「………………」




紗姫「……さっき中学のクラスメートから連絡あったんだ」

成二「………………」

紗姫「…でも…シカトしちゃった、」

成二「……………」

紗姫「消えないんだよね、いつまでたっても。

みんなに持ってた劣等感。」

成二「……………」




情けないよね、ちっちゃい女。

そう言って、はは、と笑うあたしに


成二は言った。





成二「…いけねぇことなんかねぇよ」




その言葉はやけに、大きく

あたしの耳に響いた。





成二「………………お前はそれでいいんじゃね?」





少し照れくさそうに

にかっと笑って

そう言った成二が



誰よりも誰よりも、愛しく感じた。





─────────…

同じころ、寮のリビングでは美子と龍が話をしていた。



美子「…それでいっぱい星が降ってきた…」


龍「星かぁ、…美子のほうに?」


美子「うん、」


龍「そっか、いつも美子が下から見てるから

美子に会いに来たのかな?」


美子「だったら…いいな…」


龍が美子の話を聞きながら優しく笑っていると、だるそうな足音が聞こえ、開いたドア。



春男「あれ、龍くんまだいたの?」

龍「お、春男」

春男「…ああ、美子ね
毎日ごくろーさん」



小生意気に龍にそう告げて
春男は棚からコップを取り出してお茶を飲む。



龍「なあ、春男」
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