気になる背中
反射的に振り返ると、同じ学年の男の子が居た。名前も知らないし話した事もないけれど、顔は見覚えあった。
「んだよー、陸クンってばナンパ?」
「違うって。同じクラスの神崎」
大塚君がそう答えると、その男の子がまじまじと私の方を見た。
「へーぇ」
「あ、あの……っ」
じっくりと見つめられて居心地が悪い。思わず大塚君の方へと振り返り、目で助けを訴えかけてしまった。
するとそれが通じたのか、大塚君がぐいっと私の手を引いて、彼からの視線を遮ってくれた。
「ひゃっ、あのっ」
手を引かれたまま腰を抱き寄せられるような体制になってしまって、びっくりして変な声が出てしまう。こんな密着して、心臓がさっきよりも激しく音を立てる。
「おほー!陸クン大胆ー!」
「うっせ!見るの禁止!」
「だって、例の神崎サンだろー?見ちゃうって」
例のってなんだろう。
私、なにか悪い噂でもあるのかな……。
大塚君たちの会話を聞きながら、そんなことを思って不安になる。その間も、大塚君は私を抱き寄せたまま。二つの意味で心臓がドキドキして落ち着かない。
「あーもぅ、余計なこと言うなよ。神崎、こっち」
からかう声から逃げるように、大塚君が私の手を引いた。男の子を残して、そのまますたすたと駅の改札の方へと歩いていく。
「え、あの、大塚くん…?」
「いいから。神崎は、こっちの上りで良かった?」
「う、うん。そうだけど…」
急にどうしたんだろう。
わけのわからないまま改札まで連れていかれて、そのまま見送られる。
「気を付けてな」
「うん…ありがとう」
改札越しに手を降られて、私も小さく振って返した。