てのひらの中の世界
突っ伏したままボソッと呟くと、油野は「こわいこわい」と大げさな身振りで教室をあとにした。
隣にいたねーさんはくすくすと油野のことを笑う。
そしてそのまま何もしゃべらなくなったあたしの隣に、特になにを言うわけでもなく座っていた。
間もなく始業を迎える教室は、少しづつ集まってきたクラスメートたちで騒がしくなっていく。
ねーさんが隣にいることを知りながら、だけどそれでもあたしは自分から口を開くことはなく。
……考えていた。一昨日の夜のことを。
『またね』って、言ってくれた。いつ訪れるかもわからない『また』という時間は、どれだけ待てば手にいれられるものなんだろう。
大丈夫。今回こそ、は。
そう信じていた。信じていたかった。
やがてチャイムの音が響き渡り、ねーさんは腰を上げて、相変わらず頭を机に押し付けたままのあたしにまたね、と告げて自分の席に戻っていった。