てのひらの中の世界
声を聴いたのは初めてだった。
低すぎず高すぎず、心地いい“男の人”の声。
「あ、もしもしっ……
改札のベンチのとこにいるよ!」
謎にちょっと動揺している自分。
「ん??ベンチ?
あーもしかしてベージュのワンピース着てるのが華澄?」
iPhoneを耳に押し付けたままぐるっとあたりを見渡すと、スーツを着たスラっとした男の人が、あたしと同じくケータイを耳に当ててこちらに向かってくる姿が見えた。
頭より少し高い位置で振られた手。
顔の横で右手を振り返す。
彼はあたしの前まで来ると、「ごめん、遅くなって」そう言ってはにかむように笑った。
…やばい。
想像してたより、全然かっこいいじゃん。
「ううん、あたしも来たばっかだから大丈夫!それより、ね、どこ行く?」