Escape
あたしのマンションから走って1分程先、生まれた時からの幼なじみである兼松右梨(かねまつゆうり)の一軒家の前に一人の男が立っている。
その男の正体である右梨は、レンガ造りの家の鉄格子の門に寄りかかりながら腕時計をちらちらと見ている。
「あ、くるみ……!」
「右梨! 良かったちゃんと家の前に居てくれて」
「お前これからどうするつもりなわけ?」
「この街から消える」
「馬鹿も休み休み言え。一介(いっかい)の高校生が一人で街から消えるなんてこと出来るわけねぇだろ」
「それでも、消えなくちゃ」
「……」
右梨は、あたしの顔を見るなり地面に向かって大きな溜め息を吐いた。
「右梨、」
「納得いかねぇ」