コーヒー溺路線
 

八時に出勤した彩子はフロアの中に増えてゆく人々に挨拶を済ませた。人事異動により今日からここへ勤務することになったと説明したら、あともう一人移動してくるらしいと言われた。
 

八時半ぴったりに出勤してきたのは長身の男性だった。少し日本人離れした雰囲気を持っているようで、とても品がある。この部署の部長であるという根岸が二人を呼んだ。その男性の後に続くように前に出て隣りへ並んだ。
 


 
「こちらの女性が富田さん。情報管理部から移動して頂いた。そしてこちらの男性が藤山君。彼はアメリカから昨日帰国したばかりだ、二人共この部署の良い戦力になってくれるはずだ」
 

 
「富田彩子です、情報管理部から移動して参りました。よろしくお願いします」
 

 
「藤山松太郎です。久しぶりの日本でまだこの社の勝手が解りませんので、よろしくお願いします」
 


 
挨拶をすると拍手が起こる。
彩子はぺこりと頭を深く下げて、再び藤山という男性の後に続くように自分の指定されたデスクへつく。
 

藤山という男性とはデスクも隣り同士で、少し気が楽になった。人付き合いは悪くないが、馴染むまでの雰囲気が苦手な彩子は仲間意識を持って藤山を見ていた。
 


 
「あのう、富田彩子です。よろしくお願いします」
 

 
「サイコ?」
 


 
不意に藤山から下の名前を呼ばれてどきりとした。どう返事をしていいのか解らず、はい彩子ですと言った。
 


 
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