コーヒー溺路線
その夜松太郎は彩子の住むマンションから歩いて自分の住むマンションへ帰宅した。
彩子が作ったハンバーグを共に食べ、松太郎は非常に良い気分で道路脇を歩いていた。
今日は歩いて帰って、車はまた明日取りにこようと松太郎は思った。
気分が良いのだ。
交差点へ差し掛かった所でマナーモードにしておいた携帯電話が振動し始めたのだ。
「松太郎、話がある」
電話に出てみると、相手は松太郎や彩子が勤務する社の社長であり、つまりは松太郎の実の父親の藤山秀樹であった。
松太郎は今すぐに社長室へ来いと言われ、一方的に秀樹に電話を切られた。
はあと浅い溜め息を吐き出すと、間抜けな電子音のする携帯電話を一度閉じ、しかし直ぐに思い立ってタクシーを呼ぶことにした。
「こんな時間に会社へ戻られるのですか」
「そうなんですよ、急に呼び出されちゃいましてね」
この日に乗ったタクシーの運転手は大変ですなあと、さほど気持ちのこもっていない返事をした。
それさえも今の松太郎は気にならなかった。
しかしなんだか嫌な予感はするのだ。