コーヒー溺路線
 

松太郎がシャワーを浴びている。
彩子は考えていた。話しておかなければならないこととは一体何だろう。
皆目見当が付かない。
 

彩子は松太郎の着ていたシャツを洗い、乾燥機にかけてからアイロンで皺を伸ばした。
松太郎は長い時間シャワールームにいるが、出てくる気配がない。何かを考えているのだろう、いろいろと松太郎の中にも葛藤があるのだ。
 

彩子はじっと堪えていた。
シャツはもう綺麗に畳んでシャワーの音が断続するシャワールームへと置いた。
 


 
「彩子」
 


 
松太郎に呼ばれて我に返った彩子が肩をぴくりと跳ねさせた。
そんな彩子を見て松太郎はくすりと笑う。きっと彼女は松太郎からこの後告げられる何かに要らぬ気を回しているのだろう。
 

松太郎には以前の穏和な表情が戻っていた。
彩子は少しだけ安堵した。
 


 
「松太郎さん、話というのは一体……」
 

 
「ああうん、そのことなんだけどね」
 


 
洗いかけの皿はまだ濡れていて、洗剤の泡が滑り落ちていくだけであった。
 


 
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