コーヒー溺路線
「根岸部長、どうしたんですか?」
松太郎をいざ前にすると根岸は妙に話すことを渋った。
しかし松太郎は急かさず次の言葉を待つ。
「見合いの話を昨夜社長から聞いただろう?」
「えっ、どうしてそれを」
「うん。前から見合いの話はあったんだが、社長から口止めをされていてね。婚約まで持ち込んでから君に告げると社長がおっしゃった」
それが確定した為に昨夜松太郎は急遽社長室へ呼び出されたのだ。
松太郎は溜め息を吐きそうになったのを無理に噛み殺した。
「それで本題はここからなんだが」
「本題?」
松太郎は驚いた。
見合い話が本題だと思ったからだ。
「君の見合いの話を社内で誰かが流している」
「流すとは?」
「君が社長の御子息であることまでは解っていないらしいが、我が社のAプランを支援する有木株式会社の娘が君と見合いをすることは重要な鍵だと、誰かが」
「誰かが……」
気まずそうな顔で根岸は松太郎から目を逸らした。
「それからこれは社長に私が聞くよう頼まれたんだが」
根岸はちらりと彩子の方を見た。
「もしかして君は富田君と、その、男女交際をしているのかな」
「……」
「君が彼女と随分仲が良いということは社長も調べがついているようだ。早急に縁を切るように、と社長がおっしゃったよ」