コーヒー溺路線
サイコですと答えた女性は松太郎よりもいくつか年が下のようだった。
「珍しい名前だね、どんな漢字を書くのかな」
「よく言われます、彩る子で彩子です」
「彩る、か。綺麗な名前だ」
「そんなことないですよ」
松太郎は少し照れたように俯く彩子を見て、こういう初々しい反応が堪らないなと思った。
彩子は急に立ち上がると、まずは根岸の元へ行き何か話しかけている。
次に部長のデスクに一番近い窓際のデスクの男性に、また次にはその隣りの赤淵の眼鏡をした女性に、そのように何かを聞いて回っている。部署の人間全員にだ。
松太郎が不思議そうにその様子を見ていると、一通り話しかけてきた彩子は松太郎の元に戻ってきた。
「どうしたんだい」
「藤山さん、コーヒーいかがですか?」
「コーヒー?」
「今から皆さんのコーヒーをいれようと思って」
彩子はにこりと笑った。
しかし松太郎はこういったところでコーヒーを飲むのが好きではなかった。インスタントのコーヒーしか置いていないからだ。
いや、私はと言いかけたが彩子が幾分嬉しそうにミルクと砂糖はどうしますかと聞くので、ついブラックでと答えてしまった。
「やっぱり」
「何がやっぱりなんだ?」
「藤山さんはブラックを飲みそうなイメージです」