コーヒー溺路線
「どういうことだ」
その直後、物凄い形相で松太郎は社長室へ押し掛けた。秀樹が丁度社長室へいる時間だった。
秀樹はギロリと松太郎を睨み付ける。
「うるさい、大声を出すな。見苦しいぞ」
「こんな時に黙っていられるか、見合いの話も断ることができない時期を見て俺に言ったくせに」
「いずれこうなることは解っていただろう、そしてお前はそれを承知の上でアメリカから帰国したはずだ」
「それは解っていたけど予定が狂った。まさかこんなタイミングで見合いの話が来ると思わないだろう」
松太郎のあまりの怒号に秀樹は目の色を変えた。
「そうか、やはりあの富田彩子という女か」
「……」
「それで珍しくもお前が口答えをする訳だ」
「全く人を苛つかせる物言いをするな、あんたは。調べが付いているんだろう」
「……」
「まあいいさ。見合いをしても婚約をしても、結婚だけはしないからな」
松太郎はそう豪語して社長室を飛び出した。そんな松太郎をじとりと秀樹は眺めた。
部署に戻ると彩子が不安そうな面持ちでこちらを少しだけ見た。
彩子の不安が手に取るように解る。
「富田さん、コーヒーを頂けるかな」
「はい」
松太郎が穏やかな声で言うと、彩子も幾分穏やかに返事をした。