コーヒー溺路線
 

松太郎は今日も勤務を終えて彩子の部屋に行った。もちろんいつものように車の助手席に彩子を乗せてだ。
 

彩子は穏やかな顔をしている。
 


 
「松太郎さん、今日も家で夕飯を食べて行くでしょう?」
 

 
「今日も良いのかい?」
 

 
「今日はパスタにしようと思っているんです、たくさんあるので食べて行って下さいね」
 


 
笑顔で言う彩子に、松太郎はなんだか気恥ずかしくてありがとうと呟いた。
 

彩子が、松太郎から見合いの話を聞いたあの夜から何かを考えているのは松太郎にも解っていた。
しかし何を考えているのか見当が付かない。
 

例えようのない、やり切れない不安が松太郎を襲う。どうしよう、どうしよう。連鎖だ。
 


 
「買い物はしなくても良いの?」
 

 
「ええ。パスタが好きなので大抵いつもあるんです」
 

 
「そうか、彩子はコーヒーの他にパスタが好きなのか」
 

 
「はい」
 


 
楽しみだな、松太郎が笑みをこぼすと彩子も嬉しそうにした。
 

その笑顔の真意だけが計り知れない。
 


 
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