コーヒー溺路線
 

彩子の住むマンションに到着し、前に松太郎が要望した通り彩子は着替えてから調理を始めた。
松太郎はそれを満足そうに見つめる。
 

ああ、彩子と夫婦になれたならどんなに幸せなことだろう。松太郎はゆっくりと目を瞑った。
 


 
「松太郎さん、起きて下さい」
 


 
パスタが茹で上がり、トマトソースも出来上がった頃ふと彩子が松太郎の様子を伺うと、彼はソファにもたれかかったまま眠っていた。
 

初めて見る松太郎の寝顔は意外にも幼さが残る可愛らしいものだった。
まだ起きる様子はない。
 


 
「可愛い人」
 


 
彩子はぽつりと呟く。
自然と笑みがこぼれる。
 

パスタが冷めてはいけないので彩子は松太郎の肩を揺すり、名を呼んでは起こした。
 


 
「ああ、済まない。寝てしまった」
 

 
「冷めたら美味しくないと思って起こしたんですよ。さあ、食べて下さい」
 

 
「旨そうだ」
 


 
感嘆の言葉を漏らすと松太郎は勢いよく食べ始めた。そんな松太郎を見ながら、彩子もフォークとスプーンを手にした。
 


 
「トマトソースがとても旨いよ、癖になりそうだ」
 

 
「そうですか?……嬉しい」
 


 
彩子が嬉しそうに笑った。
そんな彩子に松太郎はどことなく安心した。
 


 
「松太郎さん、今週は土日共休暇ですか?」
 

 
「ああ、確か今週はどちらも休暇だよ」
 


 
彩子の顔がぱっと明るくなった。
眼がきらりと輝いている。
 


 
「松太郎さんのお家に行きたいです」
 

 
「俺の部屋に?もちろん良いよ」
 


 
彩子は準備をしなくちゃと一言言うと嬉しそうにまたパスタを頬張り始めた。
 


 
< 113 / 220 >

この作品をシェア

pagetop