コーヒー溺路線
土日の休暇まで彩子は機嫌が良かった。
本当は周りを気にせず松太郎のことを考えていたかったが、仕事をしている以上は、松太郎が近くにいる以上はそれはしてはいけないことだった。
松太郎が社長の息子であること、見合いをすること、それからこの縁談はきっと断ることができないこと。
彩子ももう理解はしていた。
しかし、納得はできなかった。
「彩子、ご機嫌だね」
嬉しそうに松太郎が彩子だけに聞こえるよう言った。
そんなことないですよ、彩子は苦笑しながら小さな声で答えた。
土曜になり、その朝松太郎は彩子をマンションまで迎えに行った。
彩子は淡い桃色のワンピースを身に纏い、マンションの入り口で荷物を抱えて待っている。
そんな彩子を見つけると松太郎は車のクラクションを鳴らした。
「松太郎さん」
「やあ、待たせちゃったか。ごめんよ」
「そんなことないですよ」
バツが悪そうな表情で松太郎は車を降りた。
彩子の荷物をいとも容易に持ち上げて後部座席へと置いた。
彩子は松太郎に言われていつものように助手席へ座る。
「レンタル屋で何か映画のDVDでも借りようか」
「あ、それ凄く良いと思います」
運転席へ乗り込んだ松太郎の提案に彩子は喜んで賛成し、松太郎は車を発進させた。
「何が良いかな。ホラー?恋愛物?それともコメディーかな。彩子は何が見たい?」
「ううん、コメディーが良いです」
他愛ない話をしながらレンタル屋で彩子の要望通りにコメディーの映画のDVDを借り、松太郎の住むマンションへと向かった。